2020年

2020年10月9日

京都大学
ミネベアミツミ株式会社

京都大学 無線給電で社会実証試験開始、ミネベアミツミと共同国家戦略特区を活用

概要

老朽化や劣化が進んでいる社会インフラ構造物の維持管理においては、人材不足・経済性・作業効率面などで様々な課題を抱えており、マンパワーによる従来型の点検手法にかわるAI、IoT、ロボット技術などを活用した効率的な点検を行うための技術開発が進められています。特に点検方法の中で最も基本的な目視点検に代わるものとして、カメラやレーダーなど画像処理技術を活用した点検サービスの需要が増加しています。

しかしながら、これらの技術は構造物表面の外観観測による点検に留まっており、構造物の内部状況を的確に把握できるまでには至っていないというのが実情でした。

京都大学では、長年、電磁波(マイクロ波*1)を用いたワイヤレス給電技術の研究を行っており、これまでに、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のCOI(Centre of Innovation)プログラムにおいて技術開発したものを2016年12月に発表しました。技術開発は完了したものの、マイクロ波を用いたワイヤレス給電では、電波法の規制があるため、簡便には実用化が難しい状況です。そこで、2017年3月に「電動車両向けワイヤレス給電」、同5月に「電池レスセンサーへのワイヤレス給電」の社会実証実験を行い、ワイヤレス給電の利便性や実用上の問題点などを確認し、実用化に向けての取り組みを進めてまいりました。

図:無線送電システムイメージ

(図)無線送電システムイメージ

そしてこのたび、京都府の協力を得て国家戦略特別区域制度を活用することで近畿総合通信局から京都大学が免許の発給を受け、京都府宮津市の地蔵トンネル避難坑*2にて社会実証実験を行うことになりました。

本実験では、トンネル構造躯体にボルトで固定される排煙用ジェットファンなどの重量付帯設備の落下や崩落監視を目的として、走行車両からセンサーに送電しながらリアルタイムにセンシング情報を回収可能な巡回型インフラモニタリングシステムを活用します。本システムは、京都大学COIプログラムにおいて、ミネベアミツミ株式会社の研究開発グループが主体となり開発し、「マイクロ波無線送電」、「高速画像信号処理」およびボルトの緩みを直接検出する「電池レスボルト軸力センサー」の要素技術を結集したものです。

実証実験では、マイクロ波無線送電技術を活用した走行モニタリングの有用性や利便性の確認と実用上の課題抽出を行い社会実装に向けた取り組みを加速していきます。

背景

国土交通省によると建設後50年を経過するトンネルの比率は2013年の20%から、2023年には34%、2033年には50%に達する見込みであることから、経済効率の高い予知保全の立場から、トンネルではセンサーによるモニタリングが利用されつつあります。インフラ点検管理会社では人手不足を補うべく省力化技術の活用が今後いっそう促進されると予想され、従来の熟練作業者による検査手法に加え、センサー情報による客観的かつ定量的な検査手法の導入によりデータドリブンで信頼性の高い高度なインフラ維持管理が一般的になっていくものと考えられます。

研究成果

マイクロ波無線送電技術は距離の離れた給電対象物に送電することが可能な技術であることから送電効率が重要となります。そこで、開発システムの送電アンテナ部は、アレー状に配置した48素子からなる平面アンテナで構成し、マイクロ波をビーム状に成形して放射するよう位相制御しています。さらにビジョンセンサーのフレームレート(1000fps)に合わせて、1msで指向性を制御することで給電対象物へのエネルギー伝送効率を高める工夫をしています。

受電側の電池レスボルト軸力センサーもミネベアミツミ株式会社が独自に開発した小型、高感度で超低消費電力タイプのひずみゲージ:MINEGE®(ミネージュ)*3を採用しており、送電アンテナと併せ、システムレベルでの電力収支最適化に成功しました。

本インフラモニタリングシステムを活用することで、交通規制をかけることなく一般車両に混じってトンネルなどを走行しながらインフラ構造物の大域を効率的かつ経済的に点検することが可能になるものと期待されます。

社会実証実験の概要

実験期間: 2020年10月19日(月)~10月24日(土)の5日間
実施場所: 京都府宮津市字滝馬地蔵トンネル避難坑内
実施主体: ミネベアミツミ株式会社
実験内容: トンネル外部への電波漏洩を防ぐために電磁シールドを出入口に施し、地蔵トンネル本坑と避難坑を連絡する通路の根本部分に位置する拡幅された場所に、ボルトセンサ―に見立てたポール付き模擬センサーを設置し、走行時におけるビジョンセンサーによる位置マーカ―の捕捉および追跡可否確認と、10Wのマイクロ波無線送電により模擬センサーが受信した電界強度(受信電力)のレベルを確認します。
さらに、路車間通信(センシングデータを走行車両にフィードバックする)により得られるデータの妥当性を確認します。
これら実験データを取得し評価することにより、実際の運用時におけるインフラモニタリングシステムの一連の動作を包括的に検証することが可能となります。
図:走行実験の概要

(図)走行実験の概要

図:開発車両と再帰性反射位置マーカ

(図)開発車両と再帰性反射位置マーカ

図:実証実験イメージ

(図)実証実験イメージ

波及効果と今後の予定

京都大学が世界をリードするマイクロ波送電の技術をインフラモニタリングシステムとして実用化することにより、マイクロ波送電技術の利便性や潜在的な可能性を広く海外にも発信できます。

今後、世界中のいたるところでマイクロ波無線送電技術を応用した製品が普及し、世の中を大きく変えていくことが期待されます。

インフラモニタリングの用途に限定しても、トンネル内のみならず橋梁、舗装道路、下水道管路、法面などは、老朽化に起因する事故や損傷が社会・経済に多大な影響を及ぼすリスクを抱えています。したがって、マイクロ波無線送電をコア技術とした持続可能な社会インフラの実現に向けて、ワイヤレス電力伝送コンソーシアム(WiPoT)やブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)とも連携し、技術開発と共にマイクロ波送電の法制化、標準化にも積極的に取り組んでいきます。

研究プロジェクトについて

本研究成果の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「活力ある生涯のためのLast 5xイノベーション拠点*4」の事業・研究プロジェクトによって得られました。

論文・学会発表

  • [1] 辻、藤井、今井、増田、「インフラ維持管理に向けたマイクロ波給電用多素子アレイアンテナの開発」
    電子情報通信学会 無線電力伝送研究会、2020年3月
  • [2] 藤井、辻、増田、「超高速ビジョンセンシングによる高速移動目標物へのマイクロ波送電指向性制御室内
    実験」電子情報通信学会 総合大会、2020年3月

用語解説

  • *1:マイクロ波:1~10GHz程度の周波数帯の電波の一般総称
  • *2:避難坑:本線トンネルとは別に避難用に作られたトンネル
  • *3:MINEGE:ミネベアミツミ株式会社の登録商標(登録番号6069512号)
    プレスリリース 新製品「フィルム型高感度ひずみゲージ」の開発に成功
  • *4:「しなやかほっこり社会」の実現を目指し、京都大学を中核機関に約40の企業や機関が参画している産学連携の開発拠点

お問い合わせ先

研究内容に関すること 篠原 真毅
京都大学生存圏研究所 教授
Phone: 0774-38-3807 FAX: 0774-31-8463
E-mail: shino@rish.kyoto-u.ac.jp
京都大学COIに関すること 奥澤 将行
京都大学産学連携本部 COI拠点研究推進機構
Phone: 075-753-5641 FAX: 075-753-5643
E-mail: contact@coi.kyoto-u.ac.jp
ミネベアミツミに関すること 石川 尊之
ミネベアミツミ株式会社 広報・IR室
Phone: 03-6758-6703 FAX: 03-6758-6718
E-mail: koffice@minebeamitsumi.com
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