Project Story 01

ミネベアミツミの
新たな歴史を刻む。
ウェアラブル端末向け
「レゾナントデバイス」
開発の軌跡

Prologue

近年、腕時計型のウェアラブル端末の市場が急拡大している。フィットネスや睡眠のデータを手軽に記録できる小さな機器は、スマートフォンとも連動、人々の健康管理や生活スタイルを変えるものとして期待されている。この端末に欠かせないのが、バイブレーション機能だ。着信や操作のフィードバックを伝える役割を果たしているこの「振動」に、新たな息吹をもたらしたのが、ミネベアミツミの「レゾナント(共振)デバイス」である。

カギとなった技術は新たな振動方式の採用。小型化と、従来よりも繊細な振動による表現を可能とした、このレゾナントデバイスが量産へと動き出したのは、ミネベアとミツミ電機が経営統合した2017年のことだった。両社のリソースを駆使して誕生した、新たな製品。その開発の軌跡をたどった。

Profile

梶原 幸司
2004年入社 生産工学部機械工学科 卒業

レゾナントデバイス事業部技術部技術課。入社以来、長らくモーターの設計を担当。レゾナントデバイスの開発ではプロトタイプの設計から携わる。

岸田 哲哉
2015年入社 先進理工学部先進理工学科 卒業

レゾナントデバイス事業部技術部技術課。レゾナントデバイスの量産設計からプロジェクトに携わり、主に試作品の評価を担当した。

Chapter 1

人間の繊細な触覚に訴える
「回転しない」振動デバイス

スマートフォンやウェアラブルデバイスには、無数の部品が搭載されている。多機能化、小型化に伴い、その性能にも常に進化が求められてきた。バイブレーション機能を実現する、振動デバイスも例外ではない。2016年、梶原が開発に加わったのは、フィットネスやワークアウトのトラッカーとして世界中で人気を博すある腕時計型ウェアラブル端末の、次世代機種向けのレゾナント(共振)デバイスだった。

そのプロトタイプとなったのは、当時、ミツミ電機が新たに開発した「回転しない」振動デバイス。それまではモーターの回転を利用して振動を起こしていたが、磁石とコイルを用い、これに電流を流すことで重りを共振させる方式が採用されていた。

「レゾナントデバイスの強みは、振動パターン表現の多彩さにあります。電圧を変化させることで振動に強弱をつけられるほか、部品のカスタマイズによって振動の周波数を変化させることができます」(梶原)
高い周波数では速く強く動く一方で、低い周波数ではゆっくりと振動するため、繊細で優しい振れが実現できる。常に肌に触れるウェアラブル端末用途では、この特性が特に有用となりうるのだ。

開発チームはレゾナントデバイスのプロトタイプをブラッシュアップし、端末メーカーへの提案を進めた。その結果、世界中で販売される、あるウェアラブル端末の次世代モデルへの採用が決まった。発売予定は2018年。これを受け、2016年末、量産に向けた設計がスタートする。

プロトタイプの基本原理をそのままに、日常生活での実用や工場での大量生産に耐えうる設計にするのが次のステップだ。しかし、梶原は、そのミッションが決してたやすいものではないことを感じ取っていた。
「プロトタイプは試行錯誤の末に手作業でつくられたものです。量産部品として成形するには、生産性だけでなく、耐久性やコスト性などのハードルもクリアする必要がありました」(梶原)

Chapter 2

経営統合でミネベアミツミが誕生。
両社のシナジーを発揮し開発を進める

2017年1月、ミネベアとミツミ電機が経営統合し「ミネベアミツミ」が誕生する。新たにレゾナントデバイス事業部が立ち上がり、梶原たちはミネベアのエンジニア陣と共に設計を進めることとなった。両社共に、このタイプのレゾナントデバイスの量産化は経験がない。開発チームは各拠点のエンジニアに声をかけ、スプリングや部材の接合手法などに関する知見を集めていった。

「ミツミ電機では設計と製造が切り離されていましたが、ミネベアミツミになってからは「垂直統合」によって設計から生産までを、一つの製品チームが一貫して管理しています。統合により、ミネベア側から生産工程の知見を数多く得ることができました。これが開発のスピードを格段に上げることにつながりました」(梶原)

両社に蓄積された技術と経験を集約し、新型レゾナントデバイスの構造設計がまとまった。この設計が要求仕様を満たすかどうかを評価するのが、次のテストフェーズである。実際に金型を作成し、そこからつくられた部材を組み合わせて試作品を組み上げた。ところが、その試作品のテストに移った梶原たちは、思いもよらない問題に直面する。

Chapter 3

評価試験に立ちはだかる
「温度60℃・湿度90%」の壁

性能評価は、実際にデバイスが使用される条件を想定して行われる。梶原は入社以来モーターの設計に携わっていたため、ウェアラブル端末に搭載されるような極小型のデバイスを対象とした評価は初めてだ。求められる条件は、比較的大きな製品に搭載されることが多いモーターに比べ格段に厳しかった。

例えば使用環境。製品メーカーが望む仕様の一つに「温度60℃・湿度90%」の環境下での正常動作というものがあった。通常の室内環境での試験では1カ月間もの連続動作に絶えたにもかかわらず、要求された環境を再現した試験室では半日も経たずに壊れてしまう現象が多発する。評価を担当した岸田は「まさか」という思いで試験を繰り返した。

「レゾナントデバイスは、自分にとっては入社以来初めてとなる製品立ち上げでした。予想外の結果に、試験のやり方を間違えたのかもしれないと思い、何度も手順を確かめました」(岸田)

報告を受けた梶原も信じられない思いだった。試作品を分解すると、デバイスを構成するステンレス製のスプリングが折れている。試験方法や条件を確認していくが、特に手順にミスはなかった。

破損した部品を社内の分析部門に回すと、意外な事実が判明した。破損したスプリングが電子顕微鏡に映し出されると、その断面はわずかにサビを帯びていたのだ。
「ステンレス製ということもあり、耐食性は高いと考えていました。しかし、曲げ加工を施した部分の表面に微細なクラックがあり、高温多湿の環境下ではそこにサビが発生し急速に内部まで侵食していたのです」(梶原)

梶原はこのスプリングを加工した協力会社に相談を持ちかけた。すると、オイルでコーティングする、曲げをゆるくするなど、いくつかの対策が提案される。その中から選ばれたのは「不動態化処理」だった。曲げ加工を行った後に表面に人為(人工)的に酸化被膜を形成し、サビの進行を防ぐ方法だ。この不動態化処理が功を奏し、高温多湿の過酷な環境下での耐久試験を無事にクリアすることができた。気づけば、ここまでにすでに3カ月の月日が経っていたが、まだ越えるべき壁は残されていた。

Chapter 4

求められる高い耐衝撃性能。
製造チームとの連携で設計を変更

腕時計型端末に内蔵されるデバイスとして、落下による耐衝撃性能には厳しい条件が求められていた。落下試験の方法は、指定された治具に部品を入れ、一定の高さからコンクリートの床に落とすというものだ。このウェアラブル端末ならではとも言える試験は、想定していた衝撃を大きく上回った。デバイス外側のケースが歪み、その影響で内側のスプリングまでもが曲がってしまうのだ。ケースの強度を向上するために、製造手法の変更を検討する必要があった。

「当初の設計では『折り曲げ加工』によってケースをつくっていました。金属の板を平面の展開図のような形に切り出し、立体の箱に組み上げるイメージです。しかし、この方法だとケース側面の壁同士が繋がっていないため強度が弱く、落下時にここから変形が起こっていました。そこで、1枚の金属版を凹凸の型に押し込んで立方体状に成型する『絞り加工』に設計を変更したのです。折り曲げに比べ難易度が高い技術ですが、協力会社にノウハウがあり、実現に至ることができました」(梶原)

問題に直面しては、原因を分析し、解決策を検討する。一つひとつ不具合をつぶしては、テストを繰り返す日々が続いた。全ての問題が解決したのは2017年9月のこと。準備は整った。ここから、量産に向けて生産ラインを立ち上げる。梶原と岸田は生産体制を整えるために現場へと飛んだ。ラインが置かれるのはカンボジアだ。

Chapter 5

カンボジアでの生産ライン立ち上げ。
製造チームが連携してバックアップ

カンボジアにはミネベアミツミの巨大な工場がある。その一角にレゾナントデバイス用の生産ラインが新たに整えられることとなった。経験のない、全く新しい製品をここで量産する。これまで手作業でつくっていたものを機械でつくれるようにするために、必要な設備を整え、確かな工程を確立しなければならない。「ここからもう一つ大きな山を越えなければ」と覚悟を決めていた梶原を強力にサポートしたのが、ミネベアの製造チームだった。

「工場単体で課題にあたるミツミ対し、ミネベアでは各工場間で課題を共有して助け合うカルチャーが根付いていました。例えば、ラインをつくる中で足りないものがあれば、マザーファクトリーである隣国のタイ工場からすぐに調達してくれる。彼らのノウハウと人的なネットワークによって、当初考えていたよりもかなりスムーズに基本的な設備を整えることができました。このスピード感に驚きました」(梶原)
梶原は製造チームと連携し工程の確立に向け集中した。

岸田は作業員へのレクチャーを担当した。ラインの中での作業や完成品のチェックポイントなど、教えるべきことは多岐に渡る。レゾナントデバイス事業部が現地で新たに雇用した人材も多かったが、彼らが練度を上げるまでの間、タイ工場からの人的支援を得ることができた。
「英語がうまく通じないこともあり、現地で採用したスタッフとのコミュニケーションに、当初は難しさを感じていました。しかし、日々顔を合わせるうちに、いつしか簡単な冗談を交わせるくらいに打ち解けていったのです。その頃からでしょうか、うまくいきそうだという手応えを感じられるようになってきたのは」(岸田)

何もない工場のフロアに設備が入り、そこでものづくりを行うスタッフと意思が通い合う。量産に向けた体制が整い始めた。

Chapter 6

目標の生産効率を見事に達成。
レゾナントデバイスは世界へ

カンボジアに渡ってから1年後、ついに量産がスタートした。立ち上げ当初、続けて1時間動かすのがやっとだった製造ラインが、2時間、4時間と止まらずに稼働させられるようになっていく。機械の精度と作業員の練度の向上。量産を軌道に乗せるために必要な、この二つが徐々に噛み合ってきた。3カ月後には目標であった3500個/10時間の生産効率を達成した。
そして2018年の秋、梶原や岸田がつくった極小レゾナントデバイスは、新世代のウェアラブル端末に搭載され、世界中で販売が始まった。

「初めて設計から量産化までを一貫して経験して、ものづくりの難しさを実感しました。それと同時に、自分たちでつくったものがこうして多くの人の手を経て量産され、世の中に送り出されていることに、大きな達成感も感じています」(岸田)

「レゾナントデバイス事業部は、経営統合後に初めてできた部署です。ここで初めてつくられたこのデバイスは、もとは別々の会社だった人々が一丸となり、互いの力を出し切って完成させた製品だと言えるでしょう」(梶原)

レゾナントデバイスには「まだまだポテンシャルがある」と、梶原は自信をにじませる。ますます普及していくウェアラブル機器や小型端末、さらにはVR機器など、その応用範囲は幅広い。指先に乗るほどの小さな部品が、ミネベアミツミの歴史を彩る大きな一歩となる。

(※登場する社員は仮名です)

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